Four Tethers〜絆〜
 こうなったからには、沙織の気が済むまで、散歩にでも行くしかない。
 海岸線をひたすら歩いて、悠はなんとなくこの辺りで一番気に入ってる岩場に足を運んだ。
 ここは足場が悪く、人気がない。
 だが景色は最高だった。
 ウインドサーフィンをしている人をなんとなく眺めながら、一体何時間、時間を潰せばいいんだろうと考えてしまう。
 今日は風はさして強くないが、波は結構荒く、岩場に飛沫が上がっている。
 この前の遊園地の一件以来、敵は現れてはいない。
 毎日が平和といえば、平和だった。
 事件といえば、諒と綾の格闘技ごっこで窓ガラスが割れたとか、沙織が包丁で指を切ったとか…。

「平和だ…」

 苦笑しながら、悠は呟く。
 人間は本当に、些細なことが事件になる。
 それが、毎日毎日繰り返されている。
 …羨ましい、と、心からそう思う。
 そんなことを思っていた矢先、ウインドサーフィンをしていた一人が、岩場のほうに近づいてくるのが見えた。
 砂浜で見ている女の子達にいいところを見せようとしているのか、かなりのスピードでこちらに近づいてくる。

「…まずいな」

 あのスピード、風向き、セイルの角度。
 瞬時に計算しても…。

「あれじゃぶつかる」

 悠は、立ち上がった。
 向こうで、女の子達の悲鳴がかすかに聞こえる。

「…ぅわ…!」

 事態に気付くのが遅すぎるサーファー。
 悠は、彼が岩場に激突する直前、防御の壁を彼の前に作った。
 波飛沫にかき消され、一瞬だけ彼の姿が見えなくなる。
 しばらくして、他の仲間が、ボードにしがみついている彼を助けに近寄ってきた。
 悠は、その場からそっと立ち去る。

(…これも、事件か)

 些細な。毎日繰り返される事件。思わずまた、苦笑する。

「掃除、終わったかなぁ」

 呟いて家の方へ歩き出す悠。
 結局、自分と沙織が掃除をするのは目に見えている。
 綾は今頃、どうにかして姿を暗ましてる筈はずだから――。
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