Four Tethers〜絆〜
「諒くん、コーヒー置いたらすぐこっち来てよ。お客様に迷惑でしょ」
「はいは〜い…」
「返事はひとつ」
「…はい…」

 仕事のこととなると、沙織は人が変わるようだ。
 とにかく、第一ラウンドは失敗に終わる。
 時間が経つにつれ、諒も彼女のことが気になって仕様がなくなってきた。
 …そして。
 第二のチャンスがやって来る。
 彼女が、伝票を持って立ち上がる。

「ありがとうございます」

 悠がレジを打とうとしたのを押し退けて、諒はレジの前に立った。

「680円です」

 そう言ってもまだ、財布の小銭を探す振りをして、なかなか目を合わせない彼女。
 諒は、とっておきの手段に出る。

「サービスで五百円に負けとくよ」

(……!?)←沙織

 沙織の何かを訴えかける視線には、全く気付かない諒。
 これならワンコインで出しやすい。
 しかもお礼を言うだろう。
 ありがとうは目を見て、といつも沙織に言われている。

「…ど、どうも…」

 彼女はそう言うと、五百円硬貨を置いて足早に店を出た。

(…どうも?)

 それだけか。
 あれだけ人の背中に視線を送っておいて、実際に目を合わせることもなく、最後には下を向いたまま“どうも”だけなのか?

「やだ、悠くん、今のお客様携帯忘れてる」
「俺が行く」

 沙織が言い終わるか終わらないかのうちに、諒は忘れ物の携帯をひったくるように手に取ると店を飛び出した。

「今日のあいつ、なんか変だよな」
「そうよね…」

 悠の言葉に、沙織が頷く。

「もしかして諒くん彼女に…?」

 店を跳び出した諒はもう見えない。

「待てよ」

 諒が追いかけて来たのに気付くと、彼女は足早に逃げようとした。
 だが諒はその跳躍力で、簡単に彼女の頭上から前に降り立ち、行く手を阻む。

「…えっ」

 驚いた様子の彼女を後目に、諒は勝ち誇った笑顔を見せる。

「やっと目が合った」
「え?」
「俺の背中ばかり見てるだろ。なんか用事があるの?」
「あの…」

 耳まで赤くなりながら、彼女は小さな声で何かを呟いた。

「…なに?」
「…携帯の…番号、教えてくれませんか…?」

 やっと聞こえるような、か細い声。
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