Four Tethers〜絆〜
【第四章】

ACT.1…『予 感』

 悠と諒が“帰郷”して、今日で三日目になる。
 今回は一週間で必ず帰ってくると約束して行ったから、綾も比較的おとなしく納得していた。
 それでも、この三日間というもの、綾は妙に落ち着きがない。

「…あと四日の辛抱じゃない、綾」

 夕食の後片付けをしながら、リビングで苛々と煙草を吸っている綾を見かねて、沙織が言った。
 心なしか、悠達がいなくなってから、その本数は格段に増えている気がする。

「前みたいに一ヶ月も黙っていなくなるわけじゃないんだし」
「分かってる…」

 明日は定休日。
 いつもなら四人で宴会が始まっている時間だが、今日は綾のテンションが低いおかげで、いまいち盛り上がらない。

「もう一本飲む?」
「あぁ、ありがと」

 心ここにあらず、という様子で綾は缶ビールを受け取り、プルトップを押し上げた。
 一気にビールを煽る綾を見て、沙織はため息を吐いた。

「…なんでそんなに離れるのが嫌なの?」

 こんな振る舞い、普段の綾からは想像出来ない。
 一生会えない訳でもないし、この余裕のなさは一体何なんだろう。

「…なんかね…あいつらいないと、自分がどういう存在が分からなくなって…」

 死ぬことまで考えていた綾を救ってくれた二人。
 綾にとって二人は、それほどかけがえのない存在なのだ。

「普段はどこにいても“気配”でわかるだろ? でも今この瞬間、奴等はこの世界の何処にもいない…それだけで、あたし、どうしていいか分からなくなる…」

 綾も、同じなんだ。
 自分の存在を認めてくれるのが、悠と諒なのだ。
 綾もまた、沙織と同じく、自分が何故ここにいるのか、悩んでいるんだ。

「綾…」

 戦うことが、自分の存在意義。
 ――でもそんなの、悲しすぎる…。

「あ、ごめん…今は沙織が一緒にいるのにね」

 苦笑して、綾は素直に謝る。
 別に沙織と一緒にいるのが不満って訳じゃないんだよ、と付け足して。

「…分かってるわよ、そんなの」

 苦笑して、沙織は言った。

「あ〜、だめだね、あたしもまだまだ未熟だ」

 大きく伸びをして綾が言ったその時、沙織の胸の奥がちくっと痛んだ。
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