Four Tethers〜絆〜
 入ってきたのは、小学生…もしくは中学生になりたてくらいの、三つ編みをした女の子だった。
 しかもこの子は“支配”されている。

「今回の敵さん、一体何がやりたいんだろうな…」

 綾が呟く。
 しかし、昨日と同じで、敵意は全く感じられなかった。
 ――これではまるで。

「なんだか見張られてるみたい…」

 困ったように沙織が言った。
 女の子は、そのまま一番奥の窓際の席に座る。

「どうしよ、綾?」
「子供にはオレンジジュースでしょ」

 そう言って綾は、オレンジジュースをテーブルに運んだ。

☆☆☆

 その日一日、喫茶店【FREE-TIME】は珍しくお客さんがたくさん来た。
 ――だが。

「ったく…勘弁してくれよ」

 何故か綾は頭を抱えた。 沙織も困ったように、カウンターの中で動けないでいる。
 今、夜の七時。
 店を閉める時間だ。
 だが、店内は満員だった。

「お前らっ! 早く帰れよ!」

 たまりかねて、綾がそう叫ぶ。
 普段なら、お客さんに対してこんな口の聞き方をしたら、沙織に大目玉をくらうところなのだが。

「…そうよね…早く帰ってもらえないかしら…」

 何故か綾に同意している沙織。
 朝一番にあの三つ編みの女の子が来てから、次々とお客さんが来店した。
 だが今日は、何一つ注文をもらっていない。
 三つ編みの女の子も、未だに綾の差し出したオレンジジュースには全く手を付けていない。
 しかも、満員だというのに、店内は静まり返っている。
 誰一人、雑談どころか声すら発していない。

「こういう状態の喫茶店もないわよね…」
「あぁ。あったら不気味だ」

 要するに。
 ここにいるお客さん全員が“取り憑かれて”いる人間だった。
 かといって、何をされるでもない。
 全員が、ただそこに座っているだけだった。
 しかも、何を聞いても、何も喋らずに。

「まぁ、こんな状態滅多に見られるもんじゃないから、記念写真でも撮っておく?」
「やめてよ、綾」
「冗談だよ」

 それにしても、どうすればいいんだろう。
 綾と沙織は、同時に深いため息を吐いた。
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