Thus, again <短>



自分の中で、いつ明確な決意になったのかは覚えていないが、

制服を脱ぎ捨てた僕は、この町を出ることを決めていた。


それは同時に、少女から離れるという意味を持っていた。



そして、僕の代わりに、少女の待つアパートの扉を開いたのは、

少女を救う権利と根拠を持った、しっかりとした“大人”だった。



それから、僕がこの町を出る少し前に、少女もあのアパートを出て行った。

所謂、児童養護施設と言われている場所に、おそらく少女は引き取られたと思う。


そうなるようにしたのは僕だ。


たかが匿名の電話一本で、僕が何年もの間与えてやることのできなかった、

実に様々なことを、容易く解決してしまったのだろう。



そうするべきだという知恵は、本当はとうの昔につけていた。


しかし、あの子が、母親という虚像の存在の帰りを頑なに待ち続け、望んでいる限り、

それを邪魔する権利は、自分にはないと言い聞かせ続け、何年もその決断を避けてきた。


少女の身体に残る傷が、薄くなっているということは、母親があの場所にいないという何よりの事実だというのに。



代わりに、僕の全部を懸けて、できる限りで心を満たしてやればいい。

そうやって、言い訳を続けてきた。



けれど本当は、ただ自分が彼女を手放すのが怖かったという、あまりにも身勝手な利己心だった。


彼女の世界に差す光は、僕一人でいい。



太陽も月も、無数に散らばる星の役目も、何もかも引き受けて

僕が創った檻の中へ、優しいフリをして、少女を閉じ込めておきたかった。

< 22 / 45 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop