Thus, again <短>
自分の中で、いつ明確な決意になったのかは覚えていないが、
制服を脱ぎ捨てた僕は、この町を出ることを決めていた。
それは同時に、少女から離れるという意味を持っていた。
そして、僕の代わりに、少女の待つアパートの扉を開いたのは、
少女を救う権利と根拠を持った、しっかりとした“大人”だった。
それから、僕がこの町を出る少し前に、少女もあのアパートを出て行った。
所謂、児童養護施設と言われている場所に、おそらく少女は引き取られたと思う。
そうなるようにしたのは僕だ。
たかが匿名の電話一本で、僕が何年もの間与えてやることのできなかった、
実に様々なことを、容易く解決してしまったのだろう。
そうするべきだという知恵は、本当はとうの昔につけていた。
しかし、あの子が、母親という虚像の存在の帰りを頑なに待ち続け、望んでいる限り、
それを邪魔する権利は、自分にはないと言い聞かせ続け、何年もその決断を避けてきた。
少女の身体に残る傷が、薄くなっているということは、母親があの場所にいないという何よりの事実だというのに。
代わりに、僕の全部を懸けて、できる限りで心を満たしてやればいい。
そうやって、言い訳を続けてきた。
けれど本当は、ただ自分が彼女を手放すのが怖かったという、あまりにも身勝手な利己心だった。
彼女の世界に差す光は、僕一人でいい。
太陽も月も、無数に散らばる星の役目も、何もかも引き受けて
僕が創った檻の中へ、優しいフリをして、少女を閉じ込めておきたかった。