Thus, again <短>
「お兄ちゃん」
「……」
心の中では、無数の想いが飛び交っていたのに、
その想いが声になっていないことにすら、気付けないほど、僕は動揺していた。
この瞬間は、確かに予期し、心の準備もできていたはずなのに――
「久しぶり。でもないかな?――社長」
随分大人びた表情をしているけれど、どことなくあどけないその笑みは、あの頃の面影を彷彿とさせた。
「よくわかったな。僕が今日、ここに来るって」
「社長が実家に帰るって聞いたから、すぐにわかったわ」
「すごい自信だな」
「社長こそ、すごい自信よね。私が気付かなかったらどうするつもりだったの?」
もちろん、今回の休暇も行き先も、ちゃんと君の耳に入るようにしていた。
臆病な僕は、なるべく安全の確率を上げようとする賭けでしか、約束を果たすことができなかった。
だって君は――
「新入社員の中に、君の顔を見た時はびっくりしたよ。でも、君は僕に気付いてないみたいだったから、偶然なのかと思った」
この数週間、僕を不安と焦燥に駆らせ、そしてこの場所へと帰ることを決意させた、正直な気持ちを伝える。
そんな僕に、彼女は少し呆れを含んだ驚きをみせた。
「偶然なわけないでしょ」
「それならどうして、ずっと他人のフリをしてたんだ」
「あら。知らんぷりだったのは、社長の方だったじゃない。私が飲み会で絡まれてても無視してさ」