Thus, again <短>
口を尖らせて言い返す。
随分と強気で生意気に成長したらしい。
「あんな遠い昔の約束、とっくに忘れられてるのかと思った」
けれど、そう言って伏せた寂しげな瞳は、やはり僕が知っている少女のままだった。
「覚えてるさ。ちゃんと迎えに行くつもりだった。君こそ、とっくに忘れてるんじゃないかと思ってた」
「覚えてるわ!一日も忘れたことなんかない」
つい今しがた見せた、あの頃の儚い面影は消えていた。
代わりに強い意志を宿した瞳で、彼女は僕を見据えた。
その瞳の中に映し出されてしまえば、僕の弱さが露呈する気がして、
不意に目を逸らしそうになったのは、自分の方だった。
「あれから必死に勉強したのよ。大学も行った。普通より2年も遅れちゃったけどね」
あの頃、少女は学校には通っていなかった。
つまり、他人との10年近いブランクを2年で埋めたということなのだ。
きっと相当の努力をしたのだろう。
その努力の跡に、呼吸すらしづらくなるような感覚に襲われた。
「よく頑張ったな。大変だっただろう」
「全然!だって社長も、頑張ってくれてたんでしょう?」
彼女がふわりと微笑む。
「……どうでもいいけど、その“社長”って呼び方止めてくれないか?」
彼女の真っ直ぐな瞳に耐えられず、話を逸らすために、先ほどから違和感を感じていた呼び名を指摘する。
彼女はそんな僕を見て、何故だか楽しそうに笑った。
なんだかわからないが、どうも主導権を彼女に握られている。
僕はこんなにも君の前で、弱気な男だったかと、情けなくなった。