Thus, again <短>
「だけど、名前も知らなかったのに、僕の会社がよくわかったな」
「そんなの、あれだけ有名ならわかるに決まってるじゃない。雑誌に顔写真も載ってたもの」
「そっか」
僕はテレビで取り上げられるほどの有名人でもないし、IT雑誌なんて、興味のある人間しか見ないはずだ。
彼女がITに興味があったのか、偶然雑誌を目にしたのか、
それとも、必死に僕を探してくれたのか――
真実を聞くのはよそうと思った。
知ってしまえば、また自分が、余計に情けなくなってしまう気がしたから。
「僕が迎えに行くって言ったのに、先越されちゃったな」
「もう待ってるのは飽きたわ」
彼女はそう言って、誇らしげに笑ってみせた。
「欲しいものは、待ってるだけじゃなくて、自分で手を伸ばさなきゃいけないってこと、学んだの」
「逞しい。本当、佐倉が言ってた通りだな」
「え?なんのこと?」
「いや。なんでもない」
不思議そうに首を傾げる。
時折垣間見せる無邪気な仕草に、僕は安堵する。
僕はきっと彼女に、駆け足で大人になることを強いてしまった。
そんな彼女が、子どもらしさを残していることに、勝手だが少しの罪悪感から救われた気がした。