Thus, again <短>
古びたアパートの寂れかけた扉を開ければ、まるで仔犬のような仕草で、僕の元に駆けてくる。
そして、そっと頭を撫でてやれば、いっそう嬉しそうに破顔して、僕の身体に擦り寄ってくる。
そんな光景が蘇る。
それは思わず恐れてしまいそうなほど、鮮明な記憶だった。
いつのまにか持て余し、僕の奥底で、無意識のうちに、愛しすぎるほど成長していた想いに気付かされる。
元来、男というものは、随分と身勝手な生き物で、
自分に都合のいい記憶だけを留めておくきらいがある、と僕は常々思っている。
そればかりか、綺麗な記憶だけを取り繕って、場合によっては書き換えてしまうこともあるのだ。
ただし、女と違って、そこに打算的な作為などは一切なく、
ただ、単純に純粋に、そして愚かに、自分にとって幸福な展開を本気で描いてしまうのだ。
無条件に信じてしまっているから、そうなるための策略もない。
しかし、だからこそ、救いようのない生き物であると思う。
ロマンチスト。
ビリーバー。
そして、この今もまた例外ではなく、あの日と同じ光景が再び蘇るものだと、
大した根拠もなく、信じてしまっている自分がいた。