Thus, again <短>
あの日の少女は“あの子”ではない。
きっともう“あの女性(ヒト)”と呼ぶことの方が相応しい、立派な女性へと成長しているのだ。
あの頃、手を加えられていなかった、腰まで届いた艶やかな黒髪も
素肌のままで紅く染まった頬っぺたも。
今はもう、何処にも……
それでも、確かに変わらないものがあるのだと、信じていたい。
今、僕が歩いている、この道のように――
たとえば、イチゴ畑が、スーパーに変わっていても。
たとえば、少年たちが走り回っていた空き地が、高層マンションに変わっていても。
10年越しに触れたこの町の空気が、自分の記憶の中にあるそれと変わらないことに、安堵のため息が漏れる。
――そうだ。
きっと、いつまでも変わらない景色があるように、変わらない心もある。
たとえ、ロマンチストと笑われようと、ビリーバーだと罵られようとも、僕はまだ、そう信じていたい。
それが、愚かなエゴイズムであったとしても。
ただの独りよがりな希望であったとしても。
僕はゆっくりと、追憶の宝箱の中に、大切に仕舞った想い出の道を辿る。