女神 ~雪の花~
今年
女神~雪の花~
         亞琉灼ノ 栄記守

「今年は来なかったか。」
 残念そうに霜月の空を見上げる少年。霜月だというのに吐く息は白い。少年の名
は、木ノ下連。連は、着ているパーカーの左ポケットからウォークマンを取り出し、
イヤホンを両耳につけ、音楽を聴く。
「冬が寒くて本当に良かった・・・。」
そう呟いて、歩き出した。いつもと何も変わらない道、とくに目立たない道、歩いて
いる人が目立つ道。そういった表現ができる。そして、自分の家が見えてきた。先程
いた場所から家までに擦れ違った人はいない。いつもなら、途中で近所の御爺さんと
擦れ違うのに。そう思いながら、玄関の取っ手に手をかけ扉を開けた。そこから、暖
かい空気が流れ出し、芳香の香りもする。中に入ると、芳香の香りが強くなる。
「早く閉めてね。暖気が逃げちゃうから。」
洗濯物を抱える母が言った。
「ハイ、ハイ、分かってるよ。」『ガチャ』
連は扉を閉め、靴を脱ぎ、それを揃え、リビングに向かう。
「今日は、どこ行ってたの?」
母はTシャツのシワを伸ばしながら僕に聞いてきた。
「いつもの場所…。」
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