輝く季節へ

アイツ

 一生懸命咲いた花を、小さな手で・・・
 千切り、毟り取る子供たち。
 
 枯れることの苦しみを知らず、
 自己のみを満足させる子供たち。


 
 ― アイツはそんなんじゃない。



 痛みを知ってる。

 守られることに対しての
 感謝を知ってる。

 細い体で、必死に花を守ろうとした。

 守りきれなかったこともあった。
 アイツは、
 密かな悲しみを噛み締めてた。
 いつの日も―。




 たっ君の優しさ。
 私にくれたドーナツ。

 お腹が一杯だったからかもしれない。
 誉められたかったからかもしれない。
 毒が入っていると思い込んで、
 逃げようとしたのかもしれない。




 ―でも、アイツは違う。

 アイツはそんな通り一遍の
 優しさなんかじゃない。

 誰にも気づかれない影の勇者だった。

 強いから。
 心の底から強いから。




 鞄がなくなったあの日。
 傍から見れば逃げたように見えた。

 みんなが教室中を探しているのに、
 どこかに行ってしまったアイツ。
 アイツは、幼い頭で考えてたんだ。

 考えて考えて、
 アイツなりの答えを出した。

 母親が迎えに来る時間なのに、
 教室の外へ出て行った。
 廊下、トイレ、職員室・・・。

 逃げたと勘違いされるリスクを背負って、
 私の鞄を探しに行った。




 ごめん。



 ごめんね・・・。




 
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