カイラムの買い物
断食の儀
「遅い」
帰ってきたカイラムへの第一声だった。
「たかが買い出しに何刻待たせるんだい」
「ひどいなー、こんなか弱い弟子が危険なツーレイアからやっとの思いで戻ってきたって言うのに、そんなこと言うなんて……」
「か弱い?ツーレイアが危険?
ツーレイアの追い剥ぎよりあんたの方が遙かに危険じゃないか。
そんなことより、頼んだ物をお寄越し、ただでさえ術式が遅れてるんだから」
「はいはい、それと不足気味だった紅炎香とキハダ甲魚の背ビレも買っときましたよ」
そう言って、カイラムは庵の奥の薬法室にいる紅に、薬籠を渡した。
揺らめく蟲油灯の明かりの下で、紅の柳眉が、ぴくりと動いた。
「カイラム、お前、買い食いしたね……」
「あれ?判っちゃいました?」
「判っちゃいましたじゃないだろ。
口の周りからぷんぷん肉汁の匂いが漂ってるよ。
まったく、これじゃあ断食の意味がないだろ」
「ほら、でも、僕って育ち盛りだし……」
紅はゆっくり頭を左右に振った。
「お前ねぇ、どうして私の断食に付き合わせていると思ってるんだい」
ここで、自分一人じゃ嫌だからと答えたら、どつかれるだろうなとカイラムは思った。
でも絶対そう思っているに違いない。
「えーと……薬法師の基本だから」
「そう、断食は薬法師の体調を維持し、効率のいい薬法を行うための基本だからさ。
つまり、見習いで修行中のあんたは、特にやらなきゃいけないことなんだよ」
珍しく師匠らしいことを言っている紅に、カイラムは感心するより疑念を抱いた。
もしかして、何か企んでるんじゃないかしら?師匠ならあり得る。
「ま、胃に物を入れたことを後悔しなけりゃいいけどね」
怪しい台詞を言って、紅は薬籠の中身を取り出し、机の上に並べた。
紫唐辛子、コンラオの葉、タシアスの実、紅尼草の新芽、セグロアオトカゲの雌の右目、あとは、まとめて薬棚に放り込んだ。
帰ってきたカイラムへの第一声だった。
「たかが買い出しに何刻待たせるんだい」
「ひどいなー、こんなか弱い弟子が危険なツーレイアからやっとの思いで戻ってきたって言うのに、そんなこと言うなんて……」
「か弱い?ツーレイアが危険?
ツーレイアの追い剥ぎよりあんたの方が遙かに危険じゃないか。
そんなことより、頼んだ物をお寄越し、ただでさえ術式が遅れてるんだから」
「はいはい、それと不足気味だった紅炎香とキハダ甲魚の背ビレも買っときましたよ」
そう言って、カイラムは庵の奥の薬法室にいる紅に、薬籠を渡した。
揺らめく蟲油灯の明かりの下で、紅の柳眉が、ぴくりと動いた。
「カイラム、お前、買い食いしたね……」
「あれ?判っちゃいました?」
「判っちゃいましたじゃないだろ。
口の周りからぷんぷん肉汁の匂いが漂ってるよ。
まったく、これじゃあ断食の意味がないだろ」
「ほら、でも、僕って育ち盛りだし……」
紅はゆっくり頭を左右に振った。
「お前ねぇ、どうして私の断食に付き合わせていると思ってるんだい」
ここで、自分一人じゃ嫌だからと答えたら、どつかれるだろうなとカイラムは思った。
でも絶対そう思っているに違いない。
「えーと……薬法師の基本だから」
「そう、断食は薬法師の体調を維持し、効率のいい薬法を行うための基本だからさ。
つまり、見習いで修行中のあんたは、特にやらなきゃいけないことなんだよ」
珍しく師匠らしいことを言っている紅に、カイラムは感心するより疑念を抱いた。
もしかして、何か企んでるんじゃないかしら?師匠ならあり得る。
「ま、胃に物を入れたことを後悔しなけりゃいいけどね」
怪しい台詞を言って、紅は薬籠の中身を取り出し、机の上に並べた。
紫唐辛子、コンラオの葉、タシアスの実、紅尼草の新芽、セグロアオトカゲの雌の右目、あとは、まとめて薬棚に放り込んだ。