カイラムの買い物
「さて、年に一度の儀式を始めようかね」

 紅は机の下から小さな香炉を取り出し、静かに置いた。

 そして、紫唐辛子、コンラオの葉、紅尼草の新芽を千切って入れた。

 三種の香気が、ほのかに漂う。

 紅は千切りながら口の中で呪を唱え、術のイメージを頭の中で組み立てていた。

「カイラム、薬法師にとって一番重要なのはなんだい」

 三種全てを千切り終えた紅は、あらたまってカイラムに訊いた。

「そりゃあ、やっぱり、知識です。その薬物の使用法を知らなければ使えないでしょ」

「まあ、間違ってはいないけど、正解じゃないね。
いいかい、薬法師は、医者や薬師みたいに患者を治すのが仕事じゃない。
そんなものは実際どうでもいいことなんだ。
更に言えば、依頼された仕事をこなすってのも本当の仕事じゃない」

「じゃあ、本当の仕事って何です?」

「物の本質を見極めることさ。
そのための知の探求が薬法師の仕事。
つまり、薬法師にとって一番重要なのは、探求心だ。
それも、自分を犠牲にしても止まないほどの」

「そんなこと言ってるからなかなか仕事がこないんですよ」

「お前ねぇ、師匠が高尚な話をしているときに何言ってんだよ。
まぁいい、で、その探求者であるために薬法師は色々な薬物を直接扱う。
中には当然毒物も含まれる。
そいつらが少しずつ身体に溜まる。
それを浄化するのが、この断食の儀式だ」

「そーだったんですか」

「そーなの。
特に成長期のあんたは、いくら薬物耐性が人より強いって言っても、成長そのものに影響するからそろそろやらなくちゃいけないの」

 一応、大事な一人弟子なので、紅は真剣だった。

 でないと、せっかくの良質な妖眼を潰しかねない、というのも含まれるが……

「この儀式は、それぞれの薬法師で独特のやり方がある。
秘義の部類になるから大概は師匠からこうして教わるのさ」

 紅は、タシアスの実を二粒取り、カイラムに一つ渡し、残りを口に含んで飲み込んだ。

 カイラムも、それに習ってタシアスの実を飲み込んだ。
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