カイラムの買い物
「む、斑潜魚の体液が無いか。
まあ、ちょっと痛むくらいだから必要なかろう」

「えっ、ちょっと、師匠、今なんて……」

「気にするな、痛いのは最初だけだ」

「!」

 次の瞬間、一気に紅は右手をカイラムの腹に突き入れた。

 一瞬の激痛がカイラムの身体を強ばらせる。

 そして、間髪入れず引き抜く。

 その手には手の平で包める程の黒い球体が握られていた。

 紅はその球体を用意していた保存用の口広の瓶に入れると、ゴム付きの蓋で締め、金具で密閉した。

「ふう、何とか取り出せたわ。
調子はどうだい」

「えーと……大丈夫みたいです」

 カイラムの腹には傷や血の一滴すら着いていなかった。

 痛みも最初の一瞬だけで、今は少しむずかゆい程度で何ともない。

「心霊治療のまね事が出来るなんて、さすが師匠ですね、伊達に歳はとってないです」

「なんだって?」

「いたたた、だから、歳はとって無いって言ってるじゃないですか」

「まったく、それだけ言えれば、大丈夫だね」

 紅は呆れて摘んでいたカイラムの耳を放した。

「へぇ、これが僕の身体に溜まっていた毒素ですか」

 カイラムの興味は、テーブルに置かれた瓶の中身に移っていた。

「これはセグロアオトカゲの雌の右目を核として凝固した毒素の塊なのさ。
その大きさで毒素の量も判るんだが、その歳でこの大きさって事は、あんた相当腹黒いねぇ」

「何言ってるんですか……あれ、これは?」
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