CHIME
そう言えば、夕食を食べていないのだ。


泉は透の顔にほっとしたのか、無表情の顔をわずかに和らげる。


食べ終り、透の目が戻り始めた頃、泉はそっと何があったのかを聞いた。


「…後藤が…死んだ」


泉の目が見開かれる。


透といつも一緒にいた後藤は、透の親友として評判だったから、顔は覚えていた。


「顔が判らない程殴られてっ、腕に『復讐』って…奴等に後藤は…ッ」


手を握り、体をワナワナと震えさせる。


「ちょっ…ちょっと待て。すると彼らが…その…君に復讐する為に」


泉は息を呑む。


「たったそれだけの為に、人一人殺したって言うのか?」

まさかと言う声である。


しかし、違うと言い切る事は出来ない。


人間とは醜い生き物だ。自分より下だと思っていたものに刃向かわれれば、腹も立つ。


「奴等しか考 えられない!!」


透の目が怒りに燃えた。


「どうして後藤が殺されなきゃなんないんだよっ!何で俺のとこに来ないんだっ!!」


泉は困惑したまま、崩れ座り込んだ透を見つめた。

「君が、責任を感じることじゃない」


泉は透を見下ろして、透の肩に手を置く。


「それは、彼らに償わせるものだ。彼らは弱いから…さらに弱いものを痛ぶって、自尊心を保とうとした。…許されることじゃないが」


沈黙が降りる。


ただ、雨音だけが部屋に鳴り響いた。
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