CHIME
「確かに」


ふうと息を吐くのは泉である。


「確かに彼は高褄先輩を殴りました。しかしそれは僕が、高褄先輩に殴られているのを見たせいであって、けして故意ではない。それとも…僕らには弁解さえ許されないと?」


「そういう訳ではない。確かに始めに手を出したのはあちらだという証言も出ている。しかし証拠がない。…それに君は先程『責任』といったが」


校長は小さく溜め息を吐く。


「…責任というとね、それなりの物がないと困るのだよ。今回はどういう訳かお咎め無しという事にはなったのだが、それでも完全には黙ってくれないようでね」


―――金か。


透は小さく舌打ちした。


 大人の汚い所を堂々と胸張って見せ付けられたようで気分が悪い。


泉は相変わらずの無表情で、部屋の中に 冷ややかな空気を散らせた。


「金で解決するつもりは僕には無いですけど。まあ、良いでしょう。それで解決するとおっしゃるなら」


泉は呟くと、胸ポケットから一枚の紙を出し机の上に置いた。


「どうぞ。好きな金額でも何でも書き込んで下さい。」


どうやら小切手らしいそれから手を放し抑揚なく言い放つと、泉は欲望に目を輝かせている校長から目を離した。


透を促し校長室を出ようとドアを開け、 閉める間際にぽつりと言う。


「でもね校長先生。教育者として、あなたは余りにも同情の余地がないですよ。
小切手は置いていきます。では、失礼しました。」


パタンと乾いた音が響き、扉は閉まった。
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