CHIME
透が病院に着くと、そこには何人かの見知った友人が立ち竦んでいた。


息を切らす透を見て、一瞬何が起こったのか分からなかったのか、ぼうっとした顔をこっちに向ける。


「……透」


山口が泣き腫らした目で声をかけた。


「…こっちだ」


山口はくるりと踵を返すと、最奥の霊安室と書かれた部屋に入っていく。


部屋には呆然と寄り添う後藤の両親。


会釈してから透は遺体にかけてある布を取った。


山口の口からうめきともつかない鳴咽が漏れる。


透は一瞬、後藤の変わり果てた顔に唖然とした。


「…冗談だろ」


透はゆっくりと呟く。


「こんなの後藤じゃねぇ。あいつきっと生きてて…明日になったらいつもみたいに笑っ…」


透の声が止まり、山口はふと透を見た。


透の目がある場所に止まる。


針のようなもので人の手で作られた傷痕。



『Retaliation』



一瞬眉を寄せた透の横で、山口はぽつりと『復讐』だと呟く。


透の顔色がざっと変わった。


気付かずに山口は再び小さく呟く。


「…医者も警察もそれ見て首捻ってたよ。アイツは…後藤は恨まれるような事する奴じゃ…ないからな」


透は唇を噛み締める。つまり…後藤は透の身代わりとなったのだ。


犯人の、透へ対する復讐と言う名の「エゴ。」


そして犯人は。


「後は……頼む…」


透は呟くと全てを振り切って走り出した。


何となく山口の声が聞こえた気がしたが、構わずに走った。
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