よゐしこのゆめ。
 
女の人の声は、少し元気がないようにも聞こえた。



「そっか。でも、編むんだ」



ベンチに座る女の人と、藤の外に佇む男の人の距離は変わらない。



「でも、編むの。だって、ここで編むのをやめたら、何か負けを認めるみたいじゃない?」



だけど何だか……

声のトーンからは、二人が確実に少し

近くなっている気もした。



「ふられた時点では負けてないんだ」


「きっとね、『こんなにも素敵な手袋を編める女を振ったのか!』って、あの人は後悔するはずなの。
だから、ふられた時点でも、これを編み終わった時点でも、わたしの勝ちなの」



女の人の表情は見えない。


でもきっと、いたずらっぽく笑っているんだろうな、と思った。


男の人の、軽い笑い声がその空間に響く……



「最高だよ、その考え方。……ねぇ、名前は?」


「わたしは望。そっちは?」



女の人が、楽しそうに聞いた。望ってことは、もしかしてママ?


じゃあ、この男の人は……?



「あぁ、僕は……」
  
『ふざけないで!』

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