よゐしこのゆめ。
わたしがじっと見ていたのに気付いたのか、彼は嫌そうにそう言った。



誰だよ、紅姫って……。

どこかの暴走族とか、組合とか、そんな感じ?



不自然すぎるこの状況に怖くなったわたしは

さっきまでのもやもやなんてすっかり忘れていた。



今は、ここから逃げることしか頭にない。



「……えーっと、邪魔してごめんなさい。わたしは……これで失礼します!」



そう言ってぐるっと方向転換をすると、彼はわたしの腕をつかんだ。



「いや、邪魔じゃないし。まだ会ったばっかじゃん!帰らないでよ」



無邪気にそう言われても、こんな怪しい場所にずっといられるわけがない。



「え……でもさっき、女の子一人じゃ危ないとか何とかって……」


「さっきはさっき!今は今!」



にっこりとそう言う彼は、本当に悪気も何も感じていないみたいだった。

悪い人にも見えない。



でも……―――



「あなた、……誰?」



恐る恐るそう聞いたわたしに、彼は一瞬目を見開いて笑いかけた。



「俺?俺はフジ。この花の、妖精」



これも、夢……?



その瞬間、わたしは意識を失った……――――
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