よゐしこのゆめ。
Ⅲ,濃紺と現実。
「あ、起きた」
ゆっくりと目を開いたわたしに、そんな言葉が降ってきた。
一瞬感じた寒さに、体が震える。
気付くとわたしは藤の下のベンチに寝かされていて
頭のある方にはさっきの彼……フジが座っていた。
テーブルに片肘をつきながら、顔だけこちらに向けている。
えーっと、何だっけ?
確か、学校から帰ってきて寝ちゃってて……
目が覚めたらパパとママが喧嘩してて……
それがショックで家を飛び出したら、ここにいて……
そうだ、こいつがいきなり……
自分はこの藤の妖精だとか言いだしたんだ……――――
「俺、フジ。お前は?」
そうそう、名前はフジだっけ?
……今は、一番聞きたくない名前だ。
「わたしは、間歩巳」
「あゆみ、か。……どんな字?」
「歩くに、蛇年の巳」
「……なるほどね。それにしても蛇って!やな説明だな」
そう言って肩を震わせる彼を、わたしはぼーっと見つめた。