よゐしこのゆめ。
「俺は、この藤の妖精で、名前はフジ。この名前は、昔この下で会話をしてたカップルの男が“フジ”って呼ばれてて、何か気に入ったから勝手に貰った。
俺達をまとめるのは、花の妖精の代表・紅姫。直接会ったことはないけど、かなりの美人らしい」



“かなりの”を強調する彼に、はいはい、と頷く。



「妖精としての俺の役割は一つ!この藤を美しく咲かせるように見守ること。だから、この藤の寿命が、俺の寿命。まぁ、こいつ長生きだからその辺はあんまり気にしてない」



淡々と語る彼の姿は、本当に生き生きしていて……


わたしは生の劇団員を見るのは初めてだけど

ここまで役に入り込むことができる彼は、相当良いポジションについているんじゃないかな……?

と、何となく思った。



「それで、何でわたしが話し相手にならなきゃいけないわけ?」


「それだ!妖精と人間がこうやって話したりするためには、いくつかの条件がそろわなきゃいけない。出会いが満月の夜であること、相手が横しまでない未成年であること、初めて会う時に、相手が一人で俺のもとに来ること」



彼は、何か暗記したものを読むみたいに、指を折って数えながらすらすらと話した。



「で、歩巳が話し相手になってくれなきゃ困るのは、俺が、例えさっきまでの条件を満たす人間をこの先見つけたとしても、歩巳以外の人間と話せなくなっちゃったから」


「どういう意味?」



わたしは、思わず眉間に寄ったしわを無視した。

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