よゐしこのゆめ。
Ⅳ,空色へ逃避。
「あっ!歩巳ー!」
「うそっ……本当にいる」
昨日の場所に行くと、フジはやっぱり藤の上に座っていた。
わたしに向かって手を振りながら、足を揺らしてる。
「当たり前だろ。紅姫にここにいるように言われてるし……」
そう言うと、フジはひょいっと体を持ち上げて、飛んだ。
「歩巳と約束したからね」
フジは、わたしのすぐ横に着地して、耳元でそう囁いた。
思わず、手で耳を押さえる。
それを見て、フジは大きく笑った。
そのまま、ベンチに座ってこっちを見る。
「可愛いなぁ、歩巳は!」
「馬鹿なこと言わないで!」
わたしは、軽く睨んでそう言うと、フジの隣に座った。
葉の隙間から、細い日の光が広がる。
この、少し薄暗い雰囲気が、すごく自然で、不思議で、何だか好きだ。
そう思って上を見上げていると、隣でフジがくすっと笑った。
「何?」
「いや、すごく穏やかな顔してるなって。昨日の夜とは大違い。何か、良いことでもあった?」
「……何にもない。
てか、せっかく穏やかな気分になってたのに、フジがそんなこと言うから嫌なこと思い出した」