よゐしこのゆめ。
そう言うと、フジは片手でわたしを引き寄せた。


頭に回った腕で、そのままストールのかかる胸元に、ふわっと顔を埋めさせられる。



わたしは、パパとママの喧嘩が続くこと
その原因を話してもらえないこと
ママが“フジ”っていう男性からのラブレターを大切にしてることなんかを少しずつ話した。



「そっか……。歩巳、よく耐えたな」



話し終えた安心感からか、涙が止まらなくなった。



何も話せなくなったわたしの頭を、フジが一定のリズムでそっとなでる。


それがあまりにも心地よくて、わたしは遠慮することも忘れて泣き続けた。






「歩巳にさ、良い話聞かせてやるよ」



落ち着いてから顔を上げると、フジはにっこりと笑ってから切り出した。



「もう何十年も前にさ、この藤の下で出会った男と女がいたんだ。女の人は花と同じ色の毛糸で編み物をしててさ。ふられた元彼のために編んでた手袋の、続きを作るんだって言ってた」


「それって、わたしが前に話した夢の話?」


「うーん……そうだけど、そうじゃないな。これは、俺が実際に見た話」


「そうなんだ。その夢を見た日から、パパとママの喧嘩が始まったんだよ」



フジの顔を正面から見るのが辛くて、わたしは思わず顔を伏せた。



「でも、これは歩巳にとって良い夢で、現実なんじゃないか?」


「そう?でも、男の人の名前もわからなかったし……」



あの夢は、夢の割には強く頭に焼き付いてる。


でもだからこそ、聞こえなかった男の人の名前が気になる。



「じゃあ当ててみれば?男の人の名前。俺は答えを知ってるし」


「そ、そんなのわかんないよ!女の人が“望”だったことしか覚えてない!」


「じゃあ、そこから推測すれば良いじゃねぇか」

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