よゐしこのゆめ。
あの“望”がママだったとしても、わたしにはあの男の人の名前を当てられない。


ママが何人の人と付き合ったのかなんて知らないし、唯一知ってるのは、パパと、ラブレターの人の名前だけ。



「努」


「うーん……ハズレ、だな」


「もしかして……“フジ”?」


「正解」



フジは、そう言うといつもの笑顔を見せてくれた。

でも、わたしは笑えない。



だってできれば、男の人の名前は“フジ”じゃなくて、パパの名前、“努”であってほしかった。


娘の夢に出てくるくらいに、ママの“フジ”への思いが強いのか、と思ったら、何だかやりきれない。



「何、つまらなそうな顔してんだよ」


「だって、“フジ”って、ママが隠してるラブレターの差出人でしょ?喧嘩してる時、パパもその人の名前言ってたし……。
それって、ママが昔付き合ってた人に未練があって、浮気……」


「ばかだな、歩巳は。話は最後まで聞けって。これのお礼に、歩巳が好きそうなものをやるって言っただろーが」



フジが、右手をわたしの頭にふわっと乗せた。


そのまま、もう少しで顔がくっつきそうな距離で、にこっと笑う。



「今、歩巳が聞きたい話をしてやるよ」


「え?」


――――――――――
―――――――
―――

「……ねぇ、名前は?」



いくつかの会話を交わした後に、男の方がそう言った。

藤の葉の隙間から顔を出して覗いても、当り前ながら二人は俺の存在に気付いてない。



「わたしは望。そっちは?」


「あぁ、僕は……」

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