よゐしこのゆめ。
そう聞こえたと思った瞬間に、やわらかく風が吹く。



そして、閉じたはずの目の前に、満開の藤が広がった。



ふわふわとしたオーラを纏う薄紫。

でも目を凝らすと、1つ1つの小さな粒が、キラキラと光ってるようにも見える。

まっすぐに地面を目指す姿は、とても素直で……

できあがった大きな塊は、何かものすごいパワーを秘めてるような気がした。



こんな一体感、今までに感じたことがない。



周りの並木と、空の水色は、それを一層引き立ててる。


目の当たりにした光景の力強さに惹き付けられて、わたしはその場所から動けなくなった。



でも、これは夢……?



まだ、目の前の藤が咲くには早いはず。



しばらくの間、わたしはその光景をじっと見つめた。




「……歩巳?」



柔らかく響いたフジの声に合わせて、わたしはゆっくりと目を開けた。

目をあけると、もうそこにはさっきの藤は見えなかった。



「プレゼント、気に入った?」


「もちろん」



貰う前に、少し違った妄想が頭の中を走ったことは、フジには内緒。


わたし達は、どちらともなく笑い合った。



「今のは、俺が思う、この藤のベストな姿。俺は、この姿をできるだけたくさん歩巳達に見せられるように、これからもずっとここにいる」



「うん」


「だから、もしも誰か、酔わせたい男ができたら……その時は、迷わずここに連れて来い。俺が、責任持って酔わせてやる」
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