よゐしこのゆめ。
にやりと笑うフジは、悔しいけどやっぱり格好良い。
小さく揺れる肩に合わせて、細い髪がキラキラと光る。
「フジじゃなくて、わたしに酔ってくれなきゃ困るじゃん」
「歩巳の魅力に俺の力が加われば、酔わない男なんていないだろ」
ばか……――――
「ありがと」
わたしは、もうすぐ薄紫に染まっていく藤に、視線を移した。
満開の藤の下で出会ったパパとママが恋に落ちたのは、きっと必然。
そんな両親を持つわたしが、ここでフジに出会ったのも、きっと必然。
……だから、わたしのこの気持ちも、きっと必然。
でもこれは、わたしだけの秘密……――――
引き出しの中のラブレターも
初めて知ったパパとママの過去も
藤色の君も、……――――
全ては甘くて、幸せな……
大事な大事な、春の、恋の夢。
目覚めることなんて
もうしばらく、忘れてても……良いよね?
隣に佇む君に、わたしはそっと、肩を寄せた。
【END】