AL†CE!
ビルを出ると、辺りは真っ暗だった。
肌を刺すような冷たい空気が佐柚をのみこむ。
居酒屋からは賑やかな明かりと騒ぎ声が漏れ、あちこちの店から、やきとりやらラーメンやらの匂いが漂っている。
佐柚は堂々とその通りを抜け駅へと向かう。
洋楽が鳴った。
震えだした携帯を開く。
見慣れた大嫌いな名前が、忌まわしく並ぶ数列と共に点滅していた。
洋楽は流れ続けている。
仕方がなく、通話ボタンを押した。
音楽が止まる。
「…もしもし」
《おーっ出た出た~。佐柚ちゃん!?》
電話口から、妙にテンションの高い、男の声がした。
うしろがガヤガヤとうるさい。
「…どこにいんだよ」
吐き捨てるように言う。
《いいからいいから!仕事あがり?おつかれさんね》
本題がこんなことでないのをわかっているので、返事はしなかった。
《あのさぁ、また、お願いなんだけど》
佐柚は息を吸い込んだ。
「…死ね」
右耳から聞こえる繁雑音と、左耳で直に聞いている街の音が不一致で、いらいらする。
《そんなつれないこと言わないで、ね?》
もう返事はしなかった。
《5000円でいいから。明日、校門迎えに行くから待ってろ~?送ってやるから》
「は?ふざっけんな…」
《じゃ、また明日♪ってもう今日か。気をつけて帰れよぉ》
「絶対くんなっ…学校は…」
ブツッ
言い終えないうちに通話は切られてしまった。