薔薇部屋
そんなミキに、遠野は、少しだけ仕事の手を休め、話しはじめた

「頑固な方でした。真っ直ぐな方…お嬢様のように、私は大人だから出来るわ、なんて、病気だから一くくりにされて何も出来ないのが嫌だったのでしょうね…それで慣れないことをして、物を壊しては旦那様に心配をかけたり…」
遠野は思い出すように言葉を続けるが、だんだんと淋しげな表情を見せはじめた

「…そうだったのね」
ミキはそっと頷き、遠野から目を逸らし、窓の外へと視線を向けた

「まったく、そっくりですよ」
呆れたように、でも懐かしそうに笑いながら遠野は言った…―その言葉を聞きながら、ミキの視線の先は、桜の木のあるいつもの公園

「……あら?」
ミキは、少しばかり遠いその公園にいた男に目を奪われた…―いや、顔が見えた訳ではない…その男が持つ赤々とした薔薇の花束に目が奪われたのだ

「…―あなたも薔薇が好きなの?」
ぽつりと、聞こえるはずのない男に問うように呟くと、遠野がそれに気付いた
「お嬢様?どうかなさいました?」

「え、いえ、なんでもないわ」
意識を公園の男に持って行かれていたミキは、遠野の問い掛けにはっとした

そして、とくにその薔薇の男は記憶に残る事もなく、用意されていた熱い紅茶に口をつけた
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