薔薇部屋
他の仕事があるからと、部屋を去っていく遠野を見送ると、頭に写真でしか見たことのない母を思い浮かべた…―あの公園に目をやると、薔薇男はまだそこにいて、桜の木の下のベンチに座り、本を読んでいた

「…―お母様の部屋は私の部屋の隣だったのよね」
ぽつりぽつりと、一人遊びでもするように独り言を言いはじめる

「お母様は退屈ではなかったのかしら?」
別に誰に問う訳でもない、奇妙な独り言…―薔薇男は、そんなミキの退屈を紛らわすかのように、空の写真を撮ったりと色んな行動をとってみせた

「私は死んでしまうほど退屈よ…―でも」
この間の夜、泣いたのを思い出して、忘れるように首を横にふると、どこか愛しげな目で薔薇男を見詰めた

「でも今はね、なんだか大丈夫なの」

公園にいる薔薇男は、空を見上げ、ゆっくりと背伸びをした…―あまり若くないその行動に、ミキは楽しそうに笑う

「なんだか退屈を感じなくなったの…この気持ちは、何かしら?」

その表情はまるで、ユミが窓の外を見詰めて見せる表情にそっくりだったとか
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