堕天使の宿
 私が降りる駅は終着駅だけれど、この二人はどこで降りるつもりなんだろう。
 私は変な気分で妙に落ち着かなかった。
 
 今日私は思い切って長期の休暇をとって一人旅に出てきた。
 若い女子の一人旅って言えば、傷心旅行って相場が決まっているらしい。
 傷心って言えばその部類に入るのだけれど、私には死ぬまでにやってみたいことがいくつかあって、今日はその下のほうのランクを実行するためにこんな辺鄙なところまでやってきたのだ。
 インターネットで見たランプの宿。電気が一切なくて、自然な灯りと、佇まいだけが売りの、都会人には人気の宿。一度はそんな雰囲気に浸ってみたかった。
 元々旅好きの私は、都会の喧騒で疲れきった心と体を癒すために、ここまできた訳なのだ。
 本音を言えば、もう何もかもがしんどくなって、どこかで一度リセットしたいからやってきたのだ。
 実は私はかなり疲れていた。失恋などではない。恋するチャンスさえなくて、失恋どころではなかったからだ。
 仕事にも、それなりに順応はできていたが、毎日毎日数字を入力して、コピーをとって、お茶を入れて、繰り返す平凡な日常に、うんざりしていた。
 私にはさして才能も無く、飛びぬけた容姿でもない。
 このまま、まっすぐに平坦な人生をどこまでも辿っていくことしかできないような日常に耐えられなかった。
 しばらく前から、不眠症になっていた。寝られない状態で悶々と朝までのたうちまわる。
 朝は朝で、睡眠不足のままでラッシュにもまれて出社する。
 会社では特に親しい友人も無く、いつも一人ぼっち。
  
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