堕天使の宿
 そのころ、もう辺りは真っ暗になっていて、真夜中の様相を醸し出している。
 私たちは車掌の指示に従って、無人駅の改札口を出て無言で乗り合いバスを待っていた。
 時折「雪駄」氏は、

 「チッ チッ・・・」
 と小さく舌うちをする。癖なのだろう。妙に他人を「イラっ」とさせる。やはり、その道の方なのだろうか。
 「憔悴」氏は、これも妙に気になるため息を繰り返していた。もしもため息の世界戦か何かがあれば相当なランキングに入れるだろう。
 どれをとっても場違いな、へんてこな絵が完成した。
 一人旅の若いOL。その後ろに人相の冴えない雪駄を履いた工員風の大男。更にその後ろに憔悴した中年のサラリーマンが何もいわずに寂しい駅の前でバスを待っている。

 どれだけ時間が流れたのだろう。
 バスは一向に来る気配が無かった。ゆうに2時間くらいは待っていたに違いない。
 「雪駄大男」の舌打ちと、「憔悴中年」のため息がピークを迎えるころ、やっと道の先に車のライトとエンジン音が確認できた。
 
 「・・・・・・いやあ、すまんこってえ。きっちり誰も降りんかったかと思うてえ、どうせこんな田舎にゃこの時分に来る人おらんやろ思とったさけなあ。通りすがりのハイヤーが無線してくれんかったらあんたら野宿になるとこやったでえ」
 バスとはとてもいえないワゴン車の運転手は、鉄道会社の指示にしらばっくれていたらしい。
 
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