堕天使の宿

ようやくランプの宿に到着した。ほんの少し、アクシデントがあったにせよ、旅には憑き物だ。
 古い大木を薄くスライスしたような宿の看板には、前衛的な文字で何かが書かれていたが読み取ることはできなかった。
 宿の玄関には煤の張ったランプが取り付けられていた。仄かに明るい。いや、明るいといったら東京都庁から叱られるかもしれない。暗いといったほうが良いようだ。蛍のほうが明るいに違いない。
 なるほど、これこそがランプの宿の真髄なのだ。ほの暗いお出迎え。侘びとか寂びとか何とかかんとか。昔、古典の授業で習ったな。
 
 宿屋の置くから主人らしき人物が現れた。目の細い40台前半の優男だった。
 その男は佐久間と名乗った。
「遅くなりました。連絡しようと思ったんですけどちょっとしたトラブルがあって、しかも携帯がつながらなくって・・予約していた坂口です。坂口いずみ。東京から着ました」

 「えっと・・・・・・」佐久間は少し戸惑っていた。

 「あの、食事はもう良いです。また明日からも当分お世話になりますから。お風呂はまだやってるんでしょうね?」

 「そうですけど、あなたは・・・」

 「すみません、疲れているので早く案内していただけます?」

 「ど、どうぞ、こちらへ」
 
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