水の怪
 亮の買ってくれた浮き輪の中に身体をくぐらせ、前屈みになって足をばたつかせてみる。少しながら前へと進んだ。

 亮のいない今、私はひたすら足をばたつかせた。どんどん沖へと向かっていることに気がつかないまま……。


●●●


 私の初恋は、亮。

 今まで真剣にだれかに恋をしたことなんてない。だって、みんな私のことが嫌いだったから。

 小学校・中学校の間は同級生のみんなが私をイジメて、だれかが私を好きになるなんてこと……あり得るはずがない。

 高校生になると同時に転校して、全く知らない同級生達との高校生活。楽しい。けれど、本当は嫌っているんじゃないかと疑っちゃってる自分もいて、そんな自分が大嫌い。

 そして亮に恋をして……けれど、きっと亮は私のこと好きじゃない。これはなんとなく思ったんだけど……私を、好きになるわけがないんだ。

 不細工だし、ほとんど無口だし、ネガティブだし、……好きになるわけ、ないんだ。


「あっ、あれ?!」


 無我夢中で足をばたつかせたせいか、気がつくと岸から随分離れていた。


「やっ……やだぁ……早く戻らなきゃ」


 泳ぎを教え終えた亮が、もしかしたら私を捜しているかもしれない……急いで戻らなきゃ!
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