水の怪
 方向転換をしたその時だった。

 ぞくりとした凍り付くような何かが、背中を走り抜ける。思わず固まって、息を飲むのも忘れてしまうほどの悪寒。

 辺りを見渡しても、当たり前ながらだれもいない。岸から楽しそうな声が聞こえるだけ。

 そして思い出す、亮の怪談。

 【海の子みぃちゃん】だっけ……。海の底にいて、綺麗な足を見るともぎ取っちゃうとかなんとか……。


(……あまり考えないようにしよう。まずいち、私の足ってそこまで綺麗じゃないし……大丈夫よ)


 自分にそう言い聞かせて、岸へ戻ろうと足をばたつかせた。しかし――。



 ――ガブッ!!



「あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙あ゙っ?!!」



 猛烈な痛みが右足を走った。私の周りの青い海が、紅く染まっていく。


「痛い痛い痛い痛いぃぃぃっ!!やっ!なに!なんなの……っ?!」


 パニックになる私。バタバタと足をばたつかせて、両手もバタバタ水を叩いて、頭の中が真っ白。
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