水の怪
 ちらっ。

 再び玄関で待っている隼人に美也が視線を向けると、やはりさっきと同じ場所を見つめながら何か思い詰めた表情をしている。

 たしか隼人の見つめているその場所は……浴室。

 浴室……といえば、昨日あんな怖い目にあったせいで身体や髪を洗えなかったな……。

 ……あ、もしかして今の私、臭いかな?!隼人に不潔な女だとか思われてる?!でも今回は要のせいで……。

 不安が脈を打った。けれど、美也はそれを振り切って隼人に近付く。


「遅くなってごめんねー」

「……あ?あぁ、そんなに待ってないよ」


 美也が話しかけると、隼人は我に返ったのかいつもと変わらない顔で美也を見る。


「ねっ、見てコレ」


 美也は自分の頭を指差す。そこには隼人の好きなブランドのピンがついていたのだが……。


「あっ、美也に何を言おうとしたのか思い出した」


 てっきり喜んでくれるかと思った美也は、隼人のその台詞で心臓が大きく脈打つ。

 思い出した……って何を?

 隼人は、いつもと変わらない表情で、いつもと変わらない声音で、美也にこう言った。



「お前ってさ……

シャンプー、変えたんだな」



 3 [風呂] -了-
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