赤い狼 壱
「馬鹿っ!」
「馬鹿はお前だろ?」
ふわり、台詞に似合わない柔らかい表情で笑った隼人に目を凝らす。
ドキリ、胸が一瞬高鳴った。
急にそんな顔とか反則…。
赤くなっているだろう頬を両手で隠す。赤い顔がバレる前に家に入らないと。
「じ、じゃあね!」
急いで隼人に背を向ける。
冷たい手で熱い自分の頬を冷ましてるのに全く効果がない頬を必死に両手で覆って隠しながら鍵を出してドアノブに手をかけた。
と、
「稚春!」
後ろから隼人の低い声。
普通だったら振り向いてる。だけど、今はきっと真っ赤だろうから振り向けない。
顔が赤いのがバレるのが嫌でドアノブに手をかけた状態で固まる。ごめん、隼人。今は振り向けない。
「そのままでも聞けよ。明日も来い、《SINE》に。絶対だぞ。」
顔を見なくても分かる。絶対今、ニヤッて右の口角を上げたに違いない。
私の顔が真っ赤なの、隼人は分かってる。
そう思ったらなんだか恥ずかしくなって急いで家に駆け込むようにして入った。