赤い狼 壱
「もっ…、ムカつく!!」
そのムカつきは半分、自分と学校。もう半分は"あの人"へだ。
本当なら今日、学校に来てなかった。
そりゃそうだ。だって起きたのが昼頃。それに昔の事を思い出して頭が凄く痛い、なんて誰だって休みたくなるものだ。
なのに二時間くらいしかない午後の授業を受けに来たのは理由がある。
それは"あの人"との約束だから。
無遅刻無欠席。
それをクリアすれば私が住んでいるアパートの家賃は、"あの人"が払ってくれるという約束だ。
もちろん、私の通っているお嬢様学校の聖華学園(せいかがくえん)の学費も払ってもらっている。
だから、それを一回でも破れば即退学、アパート退去。
そうなれば帰る所のない私は"あの人"の居る所に帰らなければならない事態になる。
それだけは嫌だ。
そもそも、あの場所に居たくなくて"あの人"に二ヶ月もかけて一人暮らしを許してもらったんだ。
なのに、帰るなんてこと絶対にしない。
ぎゅっ、と拳を握りしめる。
長い爪が掌に食い込むけど気にせずに握りしめた。
―――だから、今日の遅刻はバレる訳にはいかないのだ。