赤い狼 壱
幸い、一番最後の席だった実に音を立てずに近寄る。
「ね、私…遅刻とかしたらマズイんだよね。だから、何か先生に遅刻したってバレない誤魔化し方ってある?」
「っていうかアンタ、私の前に来てよくそんなに呑気にしてられるわね。」
「え……?」
いつもよりツートーンは低いだろう実の低い声に何故かタラリと冷や汗が伝う。
私、何かした?……してないよね。
「見覚えないとは言わせないわよ。カラオケの件は忘れないわ。」
「……ハッ!!」
思い出した!私、昨日カラオケの途中で帰っちゃったんだ!!昨日いろいろありすぎて、すっかり忘れてた!
慌てて「違うの!」と実に弁解をはかる。だけど実に「何が違うのよ。言ってみなさいよ。」と冷たい視線を向けられて何も言えなかった。
塚、怖い。実の顔が般若だ。私は人生初めて本物の般若を見たよ。いやー凄い。じゃなくて!!
「こ、これには深い訳があってですね!!」
「何よ。電話にもメールにも出れない大事な大事な用事は何だったのよ。」
「うっ。そ、その……」
昨日の出来事を言おうとして、口を閉じる。
昨日の出来事は言っていいのだろうか。