赤い狼 壱





取り敢えず顔が見てぇ。




震えてるこの女を安心させようとかじゃなく、自分のイラつきを止めるために声をかける。



人間ってのは自分のためだったら残酷になるってオヤジが言っていたのを思い出した。


全く、その通りだ。




「おい。終わったぞ。」




俯いてよく見えねぇ顔を覗き込む。


すると女はゆっくりと耳から手を外し、目を開けた。



その瞬間、女の大きな目がもっと大きくなった。それは驚いているようで。



そして、ゆっくりと開いた口から鈴を鳴らしたような綺麗な声が聞こえてきた。






「赤色――…。」






赤色?


あぁ、俺の髪の色の事か?




ジッと目の前の女を見つめる俺を女も視線を外さずにずっと見てくる。



何だ?この女。




俺を見て震えてんのにギラギラした目を俺から少しも離さない不思議な女。



声をかけようとしたら急に走り去ってっちまった。怖い思いさせちまったかもな。



目を細めながら女の去っていった方を見つめる。





さっきからあの女の事が頭に焼き付いて離れねぇ。


もう逢うことはねぇって分かってんのに。





もう一度、逢いてぇと思った。





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