赤い狼 壱
「…白兎稚春。」
"稚春"
そう、風が吹いたらかき消されてしまいそうな声量で呟かれた名前は、とても綺麗に聞こえた。
たぶん、そう思うのは俺だけだけど。
「稚春か。いい名前だな。」
他の奴等が聞いたら普通に聞こえるかもしれねぇ名前が、俺の中で何度も響いては消える。
お世辞なんかじゃねぇ。本当に、綺麗でいい名前だと。稚春にピッタリだと思った。
そう思ったら自然と笑顔が溢れ出てきて。確かに俺はこの時、初めて優しく笑った気がした。