赤い狼 壱
「ちょっ、隼人止めてっ!」
鈴を鳴らしたような、可愛いような綺麗なような、凛とした声が俺の名前を呼ぶ。
それが何故か嬉しくて、顔が緩んだのが分かった。
「俺、止めろって言われると余計にしたくなんだよな。」
ニヤリ、右の口角を上げて掴んでいる稚春の腕に力を入れてそのままのペースで歩く。
その瞬間、稚春が金魚みてぇに口をパクパクしだした。
ヤベェ。コイツ、マジで俺のツボを容赦なく突いてくんじゃねぇか。
今のままでも十分、稚春にやられてるっぽい俺の今後が心配になってきた。
「ドS!鬼畜!馬鹿!ハゲ!」
「ハゲは関係ねぇだろ。」
「離せーー!!!」
ドSと鬼畜は許せる。馬鹿は心外だが許せねぇ事もねぇ。だけどハゲは駄目だろ、ハゲは。
お前が言ったら本当にハゲちまいそうで心配になんだろうが。
必死に俺の手を自分の腕から剥がそうとしている稚春を余裕の表情で見つめる。
だから女のお前が《SINE》の総長に勝とうなんて無理に決まってんだろーが。