練乳いちごタルト
玄関のドアを開けると、私はすぐにパパの靴があることを確かめていた。

急いで靴を脱いでから広間に向かったけど、そこにパパの姿はなかった。

「ただいま。パパ? パパどこにいるの?」

私は不安になって呼んでみる。

「お帰り、いちこ。こっちだよ」

パパのカン高い声。
書斎の方からだった。

私のパパのことを、少し説明しておくと、彼は作家なの。
本も何冊か出しているらしい?
と言っても、それほど有名ってわけではないけれど・・・。

パパを見習って、私も小説を書いている。

『世界が破滅しちゃう話』

これが書き上がったら、パパの書いている作品なんかより、ずっと面白いものになると思うんだけれど、今はそんなことより・・・、

「ねぇパパ、聞いて。今度学校で参観日があるのよ。参観日、ねぇパパ、聞いてる?」

書斎でパソコンをいじっていたパパを見つけて、私が駆け寄って聞いた。

「えぇ、そうだな。いつなんだ?」

パパが手を休め、こっちを振り向く。

「待って、プリントがあるの」

慌ててカバンを開けて、私はそれをパパに差し出した。

「さ来週の日曜日か?」

手渡したプリントを眺めながら、パパはそうつぶやいた。

「どう、来られそう?」

私が尋ねる。

「う〜ん。何とかするよ。それよりいちこ、晩御飯なんだけど、適当に冷蔵庫から何か出して、自分で食べてくれないか? 悪いんだけど・・・」

「お仕事、忙しいの?」

「あぁ、締切りが近いからね。今日中にある程度仕上げておきたいんだ。ごめんね」

「そう、わかったわ」

前にパパが書いた本を、この書斎で見つけて読んだことがある。

内容は・・・、チンプンカンプンだった。難しい言葉ばかりで・・・。はっきり言って、あれはたぶん、売れてないわね。

「頑張って、パパ」

そう言って、私が書斎から出ようとした時、

「あ、そうそう、ママから電話があったよ」

パパが言った。

(ママから?)

その言葉に、私はちょっと驚いた。
何故ならそれは、とても久しぶりの、ことだったから・・・。

「土曜日、学校帰りに会いたいって。いつもの場所で待ってるそうだ。」

パパとママは別れたのだ。もう五年も前に、
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