涙色の感情
「石井さん、この本面白いね」
「ええ、そうですね」
私は、彼の微笑みかけるように言う。
彼と話していると、この無表情が憎く感じる。
せめて、好きな人の前だけでも笑えたら。
「石井さんって図書館の本全部読んじゃうんじゃない?」
「いえ、そんな読めませんよ」
「そうか?どの本も石井桜って名前があるけどな」
「篠本くんが読んでいる本を先に私が読んでいたっていう偶然ですよ」
「そうかな。俺はそれで石井さんに興味湧いたんだけどな」
ぎゅうと胸が締め付けられる。
ドキドキ胸の音が聞こえそうになる。