玉依姫
「凛子」
「とうさま」
帝は、凛子の住まう東対屋に向かった。
凛子は久し振りの父の訪問に駆け寄った。
「凛子、ほら、座りなさい」
念のため女房は下がらせ、凛子を円座に座らせ、自分も座る。
「とうさま、どうなさったのですか?」
尼削ぎの髪を揺らし、凛子は尋ねた。
「凛子、伊勢の神宮は知っているね?」
「はい」
「母様の病平癒のために、行ってきてはくれないかな?」
「わたしが、かあさまのために、かみさまにおまいりするのですね」
「そうだよ。出立は明後日。準備しておいてね」
「…はい!」
凛子は元気良く返事をする。
帝は、微笑んで凛子の頭を撫でてから、昼御座に戻った。