玉依姫
ざざ。ざざ。
ざざ。ざざ。
神無は、天津見宮から出る崖に来ていた。
昔は母とここでよく遊んだものだ。
『……………………………』
潮風に髪を遊ばれながら、神無は伏していた目を開けた。
ここは潮の関係で、飛び降りれば死体は浮き上がらない。
何度、死のうと思ったことか。
しかし、その度に勒天や守護神に遮られる。
その時、一つの神気が降り立った。
『………玄夭』
「流石だね?神無はすぐに僕達の神気を見分けられる」
『当たり前だ』
神無は振り返り、玄夭を横目で見た後、歩いて祭壇に戻っていった。
残ったのは、玄夭だけ。
「あーあ、いつになったら、神無は昔みたいに笑うのかな?」
誰に聴かれるわけでもなく、呟く。
昔の神無は、年相応の表情を見せてくれる子だった。
しかし、成長し物心がつくと、自分が置かれている立場が分かるわけで。
その頃から次第に笑顔を見せなくなった。
「誰も分かんないよね」
自嘲気味に笑い、玄夭も祭壇に戻っていった。