玉依姫
「まずいぞ……虎太郎」
「なに」
「風読み、出来るか」
「えぇっ!?僕が?無理無理無理無理無理無理無理無理無理っ!!!!!!」
風読みとは、風将なら誰しも使える基礎的な技。風を操り、標的の情報を集めたりする。しかし、虎太郎は細かい芸当が苦手なのだ。
「焔、僕が風読み苦手なの知ってるでしょ!?無理っ絶対に無理!!」
「つべこべ言わずに、早く勒天に知らせろ。迎えに行く場所がわからんだろ」
「うぅ…」
勒天には勝てない。皆そうだ。
唯一勝てるのは、神無だけ。
仕方なく虎太郎は飛翔し、地上五メートル付近で止まった。
目を閉じ、全神経を研ぎ澄ませる。
柏手を打ち、風を手繰る。
虎太郎を中心に風が巻き起こる。
「………………………………見えた!!」
ふっと風が凪ぎ、虎太郎が舞い降りる。
「どこだ」
「今は鈴鹿山脈の道を歩いてる。多分今日の夕方ぐらいには、仮宮に着くと思うよ」
「わかった」
誰かが石段を下りる。
「………神無」
神無は玉依姫を見た後、焔を見た。
『騒々しい。玉依姫がどうかしたか』
「あ…祈りが、神に届かなくなった」
『……………そうか』
溜め息をつき、玉依姫を見つめる。
『この事…忠直や守直には話すなよ。勿論、他の者にもだ』
知られたら、どうなるか分からない。
神無は目を閉じ、また直ぐに開けた。
「神無?」
『お前達は、知っているな?玉依姫を殺せばどうなるか』
守護神達はハッとした表情で神無を見つめる。
神無は玉依姫だけを見つめ、口を開いた。
『―――――…玉依姫に、死の、安寧を』