あたしの愛、幾らで買いますか?
『ううん。
 俺こそ、ごめんね』


彼は優しく言ってくれた。


「ありがとう」


自然と出た言葉だった。

何に対しての感謝の気持ちか

自分でもわからなかった。

だけど、

言わなきゃいけないと思った。


『あゆ、気を付けてね』

「うん」

『何かあったら電話するんだよ?』

「うん」

『じゃ』

「うん」


あたし達の電話はそこで終わった。

優しい朔羅の声を聞いて、

それだけで安心した。


あたしは確かに、彼に気持ちを伝えた。

だけど、

始まってない気がする。




< 111 / 484 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop