あたしの愛、幾らで買いますか?
途中駅であたしは定期券を

自動改札にくぐらせて駅を出る。

電車で隣にいた、

名前も知らないおじさんと

肩を並べて歩く。

目的地は知らない。


「名前はなんていうの?」

「…ゆき」


とっさに出た名前だった。

次が見えない人に名前を教えるなんて

バカがすること。

向こうは名前を教えるつもりなんて

ないのだから。


「ゆきちゃんて言うのか〜。
 可愛いって言われるでしょ?」

「言われないですよ」


どんなにくだらない話にだって

あたしは笑顔でこたえる。

おじさんは紳士的に見せようとして

静かに笑う。


白髪交じりで、

この人は家庭とかないのかな?

奥さんが知ったら悲しむだろうに。

自分の子供よりも若いであろうあたしに

お金を払ってまで触れ合いを求める。


大人ってちょろい。


きっと、あたしは、この言葉を聞いた

色んな大人から非難されるだろう。




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