あたしの愛、幾らで買いますか?
あたし達が黙っている間も

時間はゆっくりと進んでいく。


『なぁ…』


沈黙を破ったのは

やっぱり笹井だった。


「何?」

『お前、今幸せか?』

「なんで、あんたに…」

『いいから答えろよ』


あたしが言葉を言い終わらないうちに

笹井が少しだけ

声を荒げて言った。


「うん。
 幸せよ。文句ある?」

『そっか。
 いいんじゃね?』

「何それ」


電話の向こうで笑う笹井。

バカみたいに笑うわけでもない

ただ、

少しだけ寂しそうに笑っていた気がした。


「用件はそれだけ?」

『おう。
 たぶん…』

「へぇ~…」


あたしは早く切りたかった。

笹井と話すと息苦しくなる。

なんでよ?


理由は簡単。


【百合子の彼氏だから】


あたしの拒否反応は

こんなに容易く出るのだ。


‘百合子’


たった、その三文字に

あたしは苦しめられてきた。

苦しい?

なにも感じてないつもりだったけど、

本当は苦しかったみたい。

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